スーパーショートストーリー略してSSS
零れ落ち、頬を濡らす涙を拭くこともやめた。
戦った数が片手で数えられた内は、流した涙の分だけ後悔した。
戦った数が両手で数えられた内は、流す涙を堪える努力をした。
戦った数を数えるのも馬鹿らしくなってからは、泣くのも、我慢するのもやめた。
こういう世界だ。
自分が生れ落ちた世界とは決定的に違う。
ここの世界では殺人が看過されるというわけではないが、少なくとも、『名も無き世界』よりは寛大だ。
生きるために殺さなければならないのならば、それはあっさりと認められるのだから。
恐ろしいと思う。その心は、心の奥底に鍵をかけて封印したけれど。
息を吸う。
肺いっぱいに広がった空気は、しかし清々しさの欠片も無い。
血と汗と、土埃が舞い上がったあとの空気はとてもじゃないが堪能出来たものではなく、だからといって吸わずにいられるはずもない。
生きているのだから。
自分は、こうして、ここに立っていて、生きているのだから。
―――彼らの死を、代償に。
全部をすんなりあっさり受け入れられるはずもないと思う。
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