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ノーミュージックノーライフ、アンドノーテンキライフ
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お題ったーより

『優しい笑顔が好きだった』


多分あとで修正してからサイトにアップします。



拝啓、渋沢克朗様。

先輩がこの手紙を読んでいるということは、私はもうそこにはいないのでしょう。
私はこの手紙を誠くんに託して、先輩に渡してくれるよう頼みました。
彼女は私の一番の親友ですから、もしかしたら先輩に酷いことを云ってしまうかもしれませんが、どうか誠くんを悪く思わないでください。
彼女には説明してありますが、ちょっと全部をわかってもらうのは難しかったみたいです。
本当は全部私が悪いのに、誠くんはどうやら違う考えらしいのです。

なんだか改めて手紙を書くのは照れてしまいますね。柄にもなく、緊張しています。
でも、頑張って書くので、出来たら最後まで読んでくれたら嬉しいです。

さて、先輩は覚えていますか?
2年前のことです。

忘れもしない、夏休み。
私は生徒会に入りたてで、あの時期生徒会室のクーラーはこわれていましたね。とても暑かったのを覚えています。

気づいていたかもしれませんが、実はあの頃――というかあの頃までずっと――、私は先輩のことが大嫌いでした。

先輩はかっこよくて優しくて素敵だったのに、私にとっては、すべてが嫌味に見えていたのです。
けれど、先輩はずっと私のことを気に掛けていてくれましたね。
どんなにつれない態度をとっても、いつでも笑顔で。

そして、そう、あの日は珍しく曇り空でした。相変わらず暑いのに、太陽は見えずに薄暗い天気でした。
先輩は、云ってくれましたね。

泣いてもいいんだ、って。

なんてお節介なんだろうと思いました。
なんて失礼な人だろうと思いました。

けれど、嬉しかった。

きっと先輩にはわからないと思います。
あの時、あの先輩の言葉で私がどれだけ救われたか。

2年前、私は中学入学の直前に両親を失くしたのは以前お話しました。
哀れまれるのは、もうたくさんだったんです。
泣くのは簡単です。
悲しい、淋しいと声を張りあげれば誰かが慰めてくれたでしょう。
それが私には辛かった。
確かに私はひとりきりになってしまったけれど、可哀想なんかじゃんない。
やらなければならないことは山ほどある。だから、泣いてる暇なんてない。
そう自分に云いきかせていました。
そんな風に思っていないと、崩れてしまいそうだったんです。

私は一人きりであることと独りきりになることを勘違いしていた。
泣くことも出来ず、誰かに縋ることも出来ずにいた私にとって、先輩に云われたあの言葉は救いだったんです。

泣いてもいいということは、私は独りじゃないということだとわかったんです。
私はそのことに気付けた。
私には誠くんがいたし、幼稚園の頃に出会った大切な友人もいたし、やたらと馴れ馴れしく話しかけてくる誠二に、いつも申し訳なさそうに誠二と一緒にやってくる竹巳、口は悪いけど本当は優しい亮さん、それに、何より誰より先輩がいてくれた。
たくさんの人が、私の傍にはいてくれたのです。
馬鹿な私は、先輩の言葉で漸く気付いた。

ありがとうございました。
本当に、ありがとうございました。

あの言葉があったから、私は変われた。
今の私になれた。
感謝しても、しきれません。

本来ならこれはすべて、手紙ではなく直接伝えるべきなのかもしれませんが、生憎その勇気を私は持てませんでした。
ごめんなさい。
卑怯である自覚はありますが、どうしてもダメでした。
だって私、きっと、今先輩と会ったら泣いてしまうと思うんです。
それは嫌だから。
今は泣いたらいけないと思うから。
泣いてもいいと教えてくれた先輩の前で、今は泣いてはいけないと思ったから。
だから、ごめんなさい。

直接云えなくてごめんなさい。
卑怯でごめんなさい。

あなたを好きで、ごめんなさい。

あの日からずっと好きでした。
これからもずっと好きです。

たくさんの優しさをありがとうございました。
本当は、ずっと傍にいたかった。
でも、ダメです。
私そこにはいられない。
その優しい場所には、いられないんです。
だから、行きます。
ちょっと遠いところに。
そして、秋元琶耶は、今日でおしまいになります。
ありがとうございました。
楽しくて、あんまりにも楽しすぎて、最後の言葉を直接伝えられない私を許してください。

こんな私のことなんてもう信じられないかもしれないけれど、どうかこれだけは信じてください。

例えばこの先、先輩に恋人が出来ても、
結婚しても、
おじいちゃんになっても、

きっと、世界で一番先輩を好きでいるのは私です。

大好きです。

ずっと。

それでは、あまり長くなりすぎても大変なので、この辺りで失礼します。

渋沢先輩の、今後のご活躍を祈って。


武蔵森学園中等部 2年
秋元琶耶



*****

手紙を読み終えた渋沢は、自分の手が――自分が震えているのがわかった。
どうして。
それしか頭に浮かんでこない。
如月誠にこの手紙を渡された――というかビンタとともに喰らった――ときは何事かと思ったが、やっとすべてが一致した。
ナショナルトレセンで、彼女は急遽九州選抜のマネージャーとして働くことになった。
それは事情があるから仕方ないとして、帰りのバスに琶耶は乗ろうとしなかった。
チームメイトたちがバスの窓から顔を出して何故乗らないのかと問えば、小さく笑って首を振った。
そして。

『ごめんね。私もう、東京には戻らない』

一体どういう意味なのかわからなかった。
誰もが。
仲の良かった椎名も、同級生の藤代も、一番近しい存在だったはずの渋沢ですら。
ただ、西園寺だけが痛ましそうに琶耶を見つめており、静かに目を伏せて何も云わなかった。
首を傾げるチームメイトたちに、彼女は続けた。

『私は、今日でいなくなるから』

ますます意味がわからなかったが、何故かその疑問を口にするのはタブーのような気がして、誰も口を開けなかった。
重い沈黙が落ちた。
その沈黙を破ったのは、やはり琶耶だった。

『今まで楽しかった。本当にありがとう。お世話になりました』

ぺこり。
頭を下げる。
そして次に顔を上げた時、浮かんでいたのは、今にも泣き出しそうな――けれど、満面の、笑み。


『 さよなら 』


わからなかった。
だって彼女はずっと笑っていたから。
哀しいなんて口にせず、苦しいなんて感じさせず、ただ誰もの太陽のように笑っていたから。
わからなかった。
渋沢ですら。
否、渋沢だからこそ。
誰より近しい存在になっていた渋沢だったからこそ、見えなかった。
彼女の暗い部分、彼女がひた隠しにした部分をみることが出来なかった。
後悔したところでもう遅い。
だって彼女はもういないのだ。
さよならと云って、笑顔だけを残してどこかへ消えてしまった。
走り出したバスは止まらなかった。
西園寺がそれを許さなかった。
どんどん琶耶から遠ざかるバスの中、全員が彼女を問い詰めた。
知っていたのか。
何故教えてくれなかった。
彼女は一体どこへ行くのか。
しかし西園寺は一切口を開かなかった。
ただ一言。

『私でも、止められなかった』

それだけ、ぽつりと零しただけだった。
結局それ以上彼女を問い詰めることも出来ず、東京までのバスの中は苦しいほどの沈黙に支配された。
そして漸く武蔵森に戻ってきた渋沢を最初に襲ったのは、右頬に鋭い痛み。
ビンタだと気付いたのは、頬がジンジンと痛み出したころだった。
目の前にいたのは、如月誠。秋元琶耶の一番の親友で、実のところ渋沢は如月に嫌われている自覚があった。理由はわからないが、とにかく彼女は渋沢を嫌いだった。

『あなたはどこまで馬鹿なんですか』

厳しい眼差しが突き刺さる。

『私は』

何故このタイミングでそんなことを云われなければならないのか、ある種の理不尽さを感じていると、目の前にずいと突き出された。
思わずそれを受け取る。
手紙だった。
この、手紙だった。

『私は、あの子を悲しませたあなたを、絶対許さない』

それだけ云って、如月は立ち去った。
呆然とした。
しばらくその場に突っ立っていたのだと思う。
外出しようと玄関まで下りてきた三上に声をかけられ我に返り、ひとまず部屋に戻った。そのとき三上が何か云っていたような気がしたが、もう覚えていなかった。
そして、手紙を読んで。

「・・・・・・・・・っ」

涙が、溢れた。
どうして。
どうして。
ありがとうなどと。
ごめんなどと。
どうして。
そんな言葉はいらないのに。
ただ。
ただ。

「・・・琶耶・・・・・・ッ!」

笑っていてくれたら、それで、それだけでよかったのに。

―――どうしてもう、君はいないのだろう。

琶耶。
もう返事のない名前を心の中で叫ぶ。
脳裏に浮かぶのは、自分を呼ぶときの笑顔。
蘇るのは、自分を呼ぶ涼やかな声。
全部が全部思い出せるのに、もう何一つみることは出来ないなど、信じられるだろうか。
彼女がもうどこにもいないなどと、どうして信じられるだろう。
今さら気付いたって遅すぎる。
口にしなかった自分が馬鹿だったのだ。
これでは如月に馬鹿呼ばわりされるのも仕方がない。

自分は、こんなにも彼女が好きだった。

彼女が忘れるはずのないと云った曇天。
今日は、正反対に澄み切った青空だった。





――――――――――――――――――――――――――――――――

ぐだぐだしてすんません・・・

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