三上連載続き
まだ名前出てないとかワロス
まだ名前出てないとかワロス
雨は降り続いていた。ここ数年では珍しく、ちゃんとした梅雨の到来だった。確か去年の梅雨は全然雨が降らず、代わりに7月に雨が多かった気がする。
こう毎日降っていては洪水やら何やらが問題になるかと思いきや、量的には多くないのでその心配はまだないようだ。このまま続いたらどうなるかは知らないが。
ともかく、雨は止んでいないのだ。
つまり、あの女の云ったように忘れてやる必要はないということで。
俺があの女に出会ったのは3日前のことだった。派手な格好をしていたわけでも、目立つことをしたわけでもないが、鮮明に記憶に残っている。たとえ雨が止んで、女が云った期限が来ても忘れることは出来ないだろう。それくらい、強烈だったのだ。それに勝手に『忘れたほうがお互いのため』などと他人に云われる筋合いもない。忘れるか忘れないかなど、自分が決めることだ。
あれから毎日あの女の姿を探していた。
出会った公園はもちろんのこと、学校でも。とはいえ武蔵森は男女共学は名ばかりで、実際校舎は男女別なので隅々までとはいかない。男女共同利用棟やグラウンドや部室棟をそれとなく探るしかなかった。
なんとなくだが、あの女は武蔵森の生徒のような気がしたのだ。あの公園は武蔵森からそう遠くないし、あの格好からして遠くからやってきたようには思えなかった。つまり、あのあたりに住んでいるのだろう。加えてこの辺りにある中学は武蔵森だけだ。都立の中学はここからはやや遠い。
予想が外れていたらただの不審者だが、この勘は外れていないだろうと思う。根拠はもちろんない。
「みかちゃん、最近何やってんの?」
「人探しだそうだ」
「へー。名前は?」
「それが知らないんだと」
「何それ」
「あれスか三上先輩、もしかして一目ぼれってやつ!?」
「誠二、声でかいよ」
何が楽しくて部活以外でこんなやつらとつるまねばならんのか。寮も同じなんだから、せめて部活以外の学校生活では関わりたくないと思う間違っているだろうか。否、間違ってなどいない。だから可及的速やかにこの場を立ち去れと念じた。
「口に出てますよ先輩」
「じゃあさっさと消えろ」
「ひっでー!手伝ってあげようと思ったけどやめた!!」
「そのほうが助かるぜ」
鼻で笑ってやると、ああ云えばこう云う!と憤慨していた。言葉の使い方を学ぶべきだと思うので部屋に戻って国語の教科書を開きやがれと真剣に思った。こいつマジでめんどくせぇ。礼儀正しく大人しい笠井を見習え。
ところで何で1年のこいつらが2年の俺たちと一緒に図書室にいるのかというと、丁度授業で資料探しに来たところだったらしい。俺たちはA組B組揃って自習。ちなみにこの2組はスポーツ特待生中心編成のクラスなので、サッカー部員が圧倒的に多いのだ。ついでに云うと、俺、渋沢、中西はA組、根岸、近藤がB組。大森と辰巳と高田はC組だ。藤代、笠井、間宮は仲良くA組らしい。
ただでさえ思うようにすぐは見つからず、手がかりは同じ学校かもしれないという手探りの状態の人探しでイライラしているところに藤代のアホのような高いテンションは腹立たしいし、面白がって観察してくる根岸や中西にもこの黄金の右足を見舞ってやりたくなる。
資料を見つけたなら油を売ってないでさっさと帰れ。という思いが通じたのか知らないが、1年どもは藤代を宥めながら去っていった。
それにしても、4限目というのはやる気の出ない時間帯だ。自習用に配られたプリントは片付けてしまったし、何よりこの面子が同じテーブルに集まってしまったのだから真面目に勉強になど取り組むはずがない。渋沢だけは優等生なので予習復習に勤しんでいるが、そんなのはわかりきっていることなので誰も何も云わない。代わりに、静かにするつもりもないだけで。
「昨日は部室棟で女子に話しかけてたよなー」
「音楽室と美術室にも顔出してただろ。女子が云ってた」
「何お前仲良い女子いんの?今度紹介しろよ」
「やだよ。あと家庭科室とか実験室とかにも行っただろ」
「人探しってさぁ、なんか目星ないのかよ?」
「ない」
「げー。よくやるなぁ」
「なんでそんなご執心なわけ?」
やんややんや云うやつらに教えてやりたくもないし、実際目星も手がかりもないのだから答えようがない。不思議そうに首を傾げる根岸を無視して、授業が終わるまでの残り時間俺は寝て英気を養うことにした。突っ伏した机は梅雨の湿気で湿っていて気持ち悪かった。
顔と声しか知らない。
何故探すのかと云われてもなんとなくとしか答えられない。
しかし、諦めるつもりは毛頭ない。少なくとも、この雨が止むまでは。
*****
ふと気付いたとき、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いてきた。寝ようとは思っていたが本当に眠れるとは。
身体を起こして伸びをすると、妙な体勢で眠っていたからかバキバキといたるところから音がして思わず顔をしかめる。これだから机は。眠るならやはりベッドがいい。いや本音を云うと布団が恋しいのだが2人部屋で布団は不可能なので諦めている。実家に帰ったとき何が一番嬉しいかって、布団で眠れるところだ。
閑話休題。
とにかく起き上がると、周りの連中はすでに立ち上がっていた。
「戻るぞ、三上」
「飯だ飯―!」
「渋沢、今日弁当?」
「ああ。お前たちは食堂か?」
「めんどくせーから俺は購買で何か買ってくるわ。三上は?」
「あー、俺は・・・」
俺も購買かな、と云いかけて。
がらりと開いた図書室の入り口になんとなし目をやって。
思わず動きを止めた。
目を見開く。
息が止まる。
次の瞬間、渋沢の制止も聞かず俺は走り出していた。
そして。
「見つけた!!」
今まさに図書貸し出しカウンターに入ろうとしていた女子生徒の肩を掴んだ。
間違いない。
やっと見つけた。
やっぱり武蔵森の生徒だったんだ。
あの時と見た目は全く違うが、俺の目は誤魔化せない。
「お前、こないだの女だろ!?」
「・・・・・・!?」
遠目で見てもわかったが、こうして近くに来てやはりと確信した。
分厚い眼鏡と下りた前髪がやけに野暮ったいように見えるが、あのときの女だ。
周りの連中が驚いたように俺たちに注目していたがそんなものはどうだっていい。あいにくと、注目されることには慣れているのだ。
「やっぱここの生徒だったんだな。いい加減名前教えろよ」
「・・・・・・・・・」
「おい、聞こえてんのか?」
あまりに無反応で動きがなさ過ぎるのでややイラッとしたところで、女が動いた。
―――バシッ
掴んでいた手を振り払われて。
女はダッシュで図書室から出て行った。
今度は俺が呆然とする番だった。
女が逃げていった方向、図書室のドアを見たままあんぐりとしてしまい、あとを追うことも出来ない。
「あれ。三上逃げられてやんの」
「え、つーか今のが三上の探し人?ちょーモヤいじゃん」
「三上、何をしたんだ?」
振り払われた手がジンジンと痛む。容赦なく払ったんだろう。咄嗟というのは思った以上の威力を発揮するようだ。
周りの声は聞こえなかった。
何だ。
何なんだ、あの女。
折角見つけたのに。
雨が降り止む前に見つけたのに。
何なんだ、あの態度は。
むかむか、むかむか。
俺は本来気が長いほうじゃない。むしろ短いと云っていい。その俺が、この3日間放棄せずに探し続けてようやっと見つけたというのに。
あの女!
「・・・いい度胸だ」
呟く。
近くにいた渋沢が小さく息を飲む音がしたが知ったことか。
自慢ではないが人相は悪い。その俺が今どんな表情を浮かべているのか、なんとなくは予想がつく。
短気ではあるが、諦めは悪い。マムシほどではないが。
やっと見つけた目当ての人物を、逃げられたからといって諦めるほどあっさりともしていないのだ。
図書貸し出しカウンターに入ろうとしていたということは、あの女は図書委員。ならば、昼休みの貸し出し時間にはここにくるはずだ。曜日は決まっているのかもしれないが、それは毎日来ればいいだけの話しだし、水曜日が当番であることもわかった。
逃がすものか。
じりじりと距離を取っていく渋沢たちを放置して、俺は小さく笑った。
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20120110 From Canada
こう毎日降っていては洪水やら何やらが問題になるかと思いきや、量的には多くないのでその心配はまだないようだ。このまま続いたらどうなるかは知らないが。
ともかく、雨は止んでいないのだ。
つまり、あの女の云ったように忘れてやる必要はないということで。
俺があの女に出会ったのは3日前のことだった。派手な格好をしていたわけでも、目立つことをしたわけでもないが、鮮明に記憶に残っている。たとえ雨が止んで、女が云った期限が来ても忘れることは出来ないだろう。それくらい、強烈だったのだ。それに勝手に『忘れたほうがお互いのため』などと他人に云われる筋合いもない。忘れるか忘れないかなど、自分が決めることだ。
あれから毎日あの女の姿を探していた。
出会った公園はもちろんのこと、学校でも。とはいえ武蔵森は男女共学は名ばかりで、実際校舎は男女別なので隅々までとはいかない。男女共同利用棟やグラウンドや部室棟をそれとなく探るしかなかった。
なんとなくだが、あの女は武蔵森の生徒のような気がしたのだ。あの公園は武蔵森からそう遠くないし、あの格好からして遠くからやってきたようには思えなかった。つまり、あのあたりに住んでいるのだろう。加えてこの辺りにある中学は武蔵森だけだ。都立の中学はここからはやや遠い。
予想が外れていたらただの不審者だが、この勘は外れていないだろうと思う。根拠はもちろんない。
「みかちゃん、最近何やってんの?」
「人探しだそうだ」
「へー。名前は?」
「それが知らないんだと」
「何それ」
「あれスか三上先輩、もしかして一目ぼれってやつ!?」
「誠二、声でかいよ」
何が楽しくて部活以外でこんなやつらとつるまねばならんのか。寮も同じなんだから、せめて部活以外の学校生活では関わりたくないと思う間違っているだろうか。否、間違ってなどいない。だから可及的速やかにこの場を立ち去れと念じた。
「口に出てますよ先輩」
「じゃあさっさと消えろ」
「ひっでー!手伝ってあげようと思ったけどやめた!!」
「そのほうが助かるぜ」
鼻で笑ってやると、ああ云えばこう云う!と憤慨していた。言葉の使い方を学ぶべきだと思うので部屋に戻って国語の教科書を開きやがれと真剣に思った。こいつマジでめんどくせぇ。礼儀正しく大人しい笠井を見習え。
ところで何で1年のこいつらが2年の俺たちと一緒に図書室にいるのかというと、丁度授業で資料探しに来たところだったらしい。俺たちはA組B組揃って自習。ちなみにこの2組はスポーツ特待生中心編成のクラスなので、サッカー部員が圧倒的に多いのだ。ついでに云うと、俺、渋沢、中西はA組、根岸、近藤がB組。大森と辰巳と高田はC組だ。藤代、笠井、間宮は仲良くA組らしい。
ただでさえ思うようにすぐは見つからず、手がかりは同じ学校かもしれないという手探りの状態の人探しでイライラしているところに藤代のアホのような高いテンションは腹立たしいし、面白がって観察してくる根岸や中西にもこの黄金の右足を見舞ってやりたくなる。
資料を見つけたなら油を売ってないでさっさと帰れ。という思いが通じたのか知らないが、1年どもは藤代を宥めながら去っていった。
それにしても、4限目というのはやる気の出ない時間帯だ。自習用に配られたプリントは片付けてしまったし、何よりこの面子が同じテーブルに集まってしまったのだから真面目に勉強になど取り組むはずがない。渋沢だけは優等生なので予習復習に勤しんでいるが、そんなのはわかりきっていることなので誰も何も云わない。代わりに、静かにするつもりもないだけで。
「昨日は部室棟で女子に話しかけてたよなー」
「音楽室と美術室にも顔出してただろ。女子が云ってた」
「何お前仲良い女子いんの?今度紹介しろよ」
「やだよ。あと家庭科室とか実験室とかにも行っただろ」
「人探しってさぁ、なんか目星ないのかよ?」
「ない」
「げー。よくやるなぁ」
「なんでそんなご執心なわけ?」
やんややんや云うやつらに教えてやりたくもないし、実際目星も手がかりもないのだから答えようがない。不思議そうに首を傾げる根岸を無視して、授業が終わるまでの残り時間俺は寝て英気を養うことにした。突っ伏した机は梅雨の湿気で湿っていて気持ち悪かった。
顔と声しか知らない。
何故探すのかと云われてもなんとなくとしか答えられない。
しかし、諦めるつもりは毛頭ない。少なくとも、この雨が止むまでは。
*****
ふと気付いたとき、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いてきた。寝ようとは思っていたが本当に眠れるとは。
身体を起こして伸びをすると、妙な体勢で眠っていたからかバキバキといたるところから音がして思わず顔をしかめる。これだから机は。眠るならやはりベッドがいい。いや本音を云うと布団が恋しいのだが2人部屋で布団は不可能なので諦めている。実家に帰ったとき何が一番嬉しいかって、布団で眠れるところだ。
閑話休題。
とにかく起き上がると、周りの連中はすでに立ち上がっていた。
「戻るぞ、三上」
「飯だ飯―!」
「渋沢、今日弁当?」
「ああ。お前たちは食堂か?」
「めんどくせーから俺は購買で何か買ってくるわ。三上は?」
「あー、俺は・・・」
俺も購買かな、と云いかけて。
がらりと開いた図書室の入り口になんとなし目をやって。
思わず動きを止めた。
目を見開く。
息が止まる。
次の瞬間、渋沢の制止も聞かず俺は走り出していた。
そして。
「見つけた!!」
今まさに図書貸し出しカウンターに入ろうとしていた女子生徒の肩を掴んだ。
間違いない。
やっと見つけた。
やっぱり武蔵森の生徒だったんだ。
あの時と見た目は全く違うが、俺の目は誤魔化せない。
「お前、こないだの女だろ!?」
「・・・・・・!?」
遠目で見てもわかったが、こうして近くに来てやはりと確信した。
分厚い眼鏡と下りた前髪がやけに野暮ったいように見えるが、あのときの女だ。
周りの連中が驚いたように俺たちに注目していたがそんなものはどうだっていい。あいにくと、注目されることには慣れているのだ。
「やっぱここの生徒だったんだな。いい加減名前教えろよ」
「・・・・・・・・・」
「おい、聞こえてんのか?」
あまりに無反応で動きがなさ過ぎるのでややイラッとしたところで、女が動いた。
―――バシッ
掴んでいた手を振り払われて。
女はダッシュで図書室から出て行った。
今度は俺が呆然とする番だった。
女が逃げていった方向、図書室のドアを見たままあんぐりとしてしまい、あとを追うことも出来ない。
「あれ。三上逃げられてやんの」
「え、つーか今のが三上の探し人?ちょーモヤいじゃん」
「三上、何をしたんだ?」
振り払われた手がジンジンと痛む。容赦なく払ったんだろう。咄嗟というのは思った以上の威力を発揮するようだ。
周りの声は聞こえなかった。
何だ。
何なんだ、あの女。
折角見つけたのに。
雨が降り止む前に見つけたのに。
何なんだ、あの態度は。
むかむか、むかむか。
俺は本来気が長いほうじゃない。むしろ短いと云っていい。その俺が、この3日間放棄せずに探し続けてようやっと見つけたというのに。
あの女!
「・・・いい度胸だ」
呟く。
近くにいた渋沢が小さく息を飲む音がしたが知ったことか。
自慢ではないが人相は悪い。その俺が今どんな表情を浮かべているのか、なんとなくは予想がつく。
短気ではあるが、諦めは悪い。マムシほどではないが。
やっと見つけた目当ての人物を、逃げられたからといって諦めるほどあっさりともしていないのだ。
図書貸し出しカウンターに入ろうとしていたということは、あの女は図書委員。ならば、昼休みの貸し出し時間にはここにくるはずだ。曜日は決まっているのかもしれないが、それは毎日来ればいいだけの話しだし、水曜日が当番であることもわかった。
逃がすものか。
じりじりと距離を取っていく渋沢たちを放置して、俺は小さく笑った。
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20120110 From Canada
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