ちらっと考えてた話~
ほっとくと鬱々してるヒロインですが基本ギャグなはずなんですよ
ヒロイン→節那
ほっとくと鬱々してるヒロインですが基本ギャグなはずなんですよ
ヒロイン→節那
雨が降っていた。
雨はあんまり好きじゃない。
空気がジメジメして気持ち悪いし、歩くと靴やら服やらに泥が跳ねるし。
何より気分が暗くなる。
普段は考えないことや、考えないようにしていること、忘れていたはずの嫌な思い出がジワリジワリと浮かび上がってくる。
ああ、駄目だ。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
今日は鬼道くんがいないのに。
鬼道くんの前でなら私はいつだって強くいられるから、こんな嫌な気分にはならないから、こういうときこそ鬼道くんの傍にいたいのに。
傘は持っている。
けれど、傘を持ったまま私は昇降口に立ち尽くしていた。
濡れるから帰りたくないんじゃない。
この土砂降りの中に飛び込んたら、本当に世界から切り離されたような気分になってしまいそうだったから、ひとりで帰りたくなかった。
せめてジロちゃんか源ちゃんがいてくれたらよかったのに、ふたりとも今日は急に委員会が入ったとかでまだ校舎の中にいる。
ひとりは苦手だ。
いや。
ひとりは、嫌いだ。
しかし帰らないわけにもいかない。
ここで立ち尽くしていたってきっとすぐに雨は止まないし、ワープして家につくわけでもない。
さて、どうしたものか。
と、ぼんやりかんがえていると。
「・・・・・・ほ?」
「何をしているんだ」
「・・・・・・えへ」
へらり、と笑うと、えへじゃない、と軽く額を突かれる。
ふと暗くなった頭上を見上げれば、傘が差し出されていた。
昇降口の屋根のある場所に立っていたので濡れていたわけではなかったけれど、鬼道くんは何がしたかったんだろう。
呆れたように私を見る鬼道くんは、すでに鞄を持っている。
おや、と思う。
「委員会は?」
「終わらせた」
「終わったんじゃなくて、終わらせたんだ?」
「なんで?早く帰りたかったの?」
だったら委員長特権で、副委員長だか誰かに最初から押し付けちゃえばよかったのに、とぼんやり思ったけれど、鬼道くんはそんなことしない人だから律儀に一度は顔を出したのだろうか。
考えながら、だったら無理やりさっさと終わらせる必要もないよなぁと思い直す。
珍しいことだった。
「いや」
しかし返ってきたのは否定の言葉で、予想外できょとんとした。
別に早く帰りたいわけではないのに、ならばなぜ折角開いた委員会をさっさと終わらせてまで早く帰ろうとしたのだろう。
矛盾しているような気がするのだけれど。
「今日は、佐久間も源田も委員会があると云っていただろう」
「うん」
「・・・今日は」
「うん?」
ジロちゃんは広報委員会、源ちゃんは風紀委員会。
鬼道くんは図書委員会で、私は生徒会に入っているけれど京は仕事がなかったので集まりはなかった。
それはお昼を食べながらみんなで話していたことだから、もちろん鬼道くんも私もわかっていたはずで。
「・・・雨が、降っているだろう」
だから?と首を傾げると、だから、と鬼道くんは前置きしてから云った。
「節那が、ひとりにならないように」
「―――・・・」
「・・・帰ろう」
手が差し出される。
思わずその手をじっと見つめてしまった。
しばらくそうしていたけれど、一向に鬼道くんが手を引っ込める気配はない。
ちらり、と鬼道くんの顔を見る。
まっすぐ前を見ていて、私の視線に気付いているだろうにこちらを見ようとはしないけれど、心なし顔が赤いような気もする。
ほんの少しだけれど、なんとなくわかる。
それだけ長い時間を、私たちは共有しているのだから。
「・・・えへへ」
「・・・笑うんじゃない」
「うん・・・ふふ」
「・・・節那?」
「ごめんごめん」
雨が降っている。
雨は嫌いだった。
私をひとりきりにする雨が、私は大嫌いだった。
でも。
「・・・帰ろうか」
鬼道くんの手を取る。
暖かい手。
そっと握ると、強く握り返してくれた。
なんとも心地いい感触に、顔が綻ぶ。
手をつないで歩き始める。
傘はもちろんひとつだ。
私のじゃあ小さいから、鬼道くんの少し大きい大人用の傘。
それでも少し狭いけれど、触れ合う肩が暖かいからこれでいいと思った。
昇降口を出た途端、傘に落ちる雨音だけが耳に飛び込んでくるようになって、隣にいるのに鬼道くんと会話なんて出来なかった。
けれど、それでも、つながれた手があったから。
「・・・寂しくない」
「何か云ったか?」
「ううん、何も」
雨が降っていた。
私は、ひとりじゃなかった。
*****
だから、大丈夫。
20111124
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